春日部 一般社団法人らしえる

障害の生きづらさを考える <行動援護>

<ニュース 能登 子ども避難所で表情硬く>

                  

うつむいたまま…災害時の子どもの心のケア
長い目で関わりながら  見守り
2024年4月12日 Yahoo!ニュース


元日に起きた能登半島地震は甚大な被害をもたらしました
私は(宮﨑健祐・精神科医)青森県の災害派遣精神医療チーム(DPAT)として、発生後間もない被災地で、被災者の心のケアに当たる活動をしてまいりました
災害時の子どもの心のケアについて取り上げます


私を含む4人の隊員は、移動日を入れて1月10日から16日まで、石川県の珠洲市、穴水町、七尾市などで支援に取り組みました
青森県からは車で移動しましたが、被災地に入ると、倒壊した家屋、損傷した道路、土砂崩れなどの光景が真っ先に目に飛び込んできました
DPATの活動場所に到着してみると、そもそも被害の全容すら明らかになっていないことが分かり、災害規模は報道で知っていた以上に大きなものだと感じました
避難所や病院などを巡回して診察、地域の支援者の支援等に当たりましたが、避難所では現地の支援者から次々と相談を寄せられるような状況で、心のケアに対するニーズの高まりを肌で感じました
こうした災害に際し、子どもやお年寄り、障害をお持ちの方は、被害をより受けやすいため、重点的な配慮が必要だといわれています それまでに活動したチームからも、子どもが不安がっている、イライラしている、眠れなくなっているなどのケースが報告されていました
いざ活動を始めると、ある避難所から、「子どもの様子がおかしいので診察してほしい」という依頼が急きょありました
避難所に駆けつけ、「初めまして」と声をかけて自己紹介しましたが、その表情は硬く、うつむいたままで、話すことがしんどそうな様子でした そこで、それ以上話すことはせず、「ごめんね、急にお邪魔してびっくりしたよね。何か困っていることがないか聞きにきただけだからね」とおわびし、親御さんと別室で面接させていただきました
慣れない避難所生活で、子どものストレスがたまっているようでした 子どもが安心して生活できる県内の親類宅への避難を検討していただくことになり、地域の保健師とも連絡を取り、支援の継続を依頼しました
「次の支援者につなげる」ということも、災害時のケアでは大事なことなのです


遊びの場の確保、心のケアの視点でも大切なこと
避難所ではいろいろな子どもたちとすれ違いましたが、皆、礼儀正しく、元気にあいさつをしてくれました
ある学校の避難所で、子どもたちが運動場で楽しそうに走り回って遊んでいるところに出くわしました 子どもにとって遊びは楽しさであり、コミュニケーションであり、社会であり、癒やしの場でもあります ですから、災害時に子どもたちの遊びの場が確保されることは、心のケアという視点からも大切なことなのです
災害がもたらす様々な心の症状は、災害発生直後からだけではありません 発生から少し時間がたってから症状が表れることもあります
私は、2011年3月に起きた東日本大震災の時にも、心のケアに当たるチームとして、発生から1か月半ほど経過した被災地に派遣されたことがあります仮設住宅に入居される方が増え、大人たちは、少しだけ生活に見通しを立てることができるようになったという時期でした
ところが、このタイミングで、それまでは何の問題なく過ごしていたのに、不安になる、眠るまでに時間がかかる、イライラする、などの症状を訴えるようにった子どもたちがいました
周囲の大人の中には、「支援が順調に進んでいるのに、なんでこんなことになるのだろう……」と不思議に思われる方もいました また、ある子どもさんは、仮設住宅に入居したことで、それまで避難所で会っていた友人たちと離れてしまうことになり、かえって不安になってしまったということもありました


能登半島地震から約3か月となります 震災による本当の心の傷は、外からは見ることができません それまで何も問題がないように見えていた子どもたちも、実はずっと心の傷を抱えながら過ごしていたということがあります 一方で、心にかかる負担の性質は、時間の経過とともに変化していきます 震災そのものによるショックだけではなく、それに伴う様々な環境の変化が心の負担となってしまっていることもあるのです
災害時の子どもの心のケアには、長い目で関わって、見守っていくことが大切です

    

宮﨑健祐 精神科医
1978年、岐阜県生まれ 大分大学医学部卒業
弘前愛成会病院精神科医局長・外来医長。児童思春期の心の診療に長年携わる2017年、日本児童青年精神医学会実践奨励賞
著書(いずれも分担執筆)に「現代児童青年精神医学(山崎晃資編著、永井書店)」「不安障害の子どもたち(近藤直司編著、合同出版)」「発達障害支援の実際(内山登紀夫編、医学書院)」など