春日部 一般社団法人らしえる

障害の生きづらさを考える <行動援護>

<ニュース 同意なき配置転換は違法>

職種限定合意の職員に対する
「同意なき配置転換」は違法 ―最高裁
2024/05/ 企業法務ナビ


はじめに
労使間で職種限定合意がある場合に、使用者において労働者の同意なしに配置転換を命じる権限はないとする初判断を、4月26日、最高裁判所が示しました

原告男性が従事していた業務に関し、受注減少を理由に廃止の方針があった中、使用者である被告が、男性を欠員のあった別事業部へ合意なく配置転換したことから、その適法性を巡り裁判となったものです 
訴訟では、業務廃止が見込まれる中でも、職種限定合意がある場合の一方的な配転命令が違法となるのかが注目されていました


◆◆配置転換の背景と訴訟までの経緯
報道などによりますと、原告の男性は2001年から、滋賀県社会福祉協議会が運営する福祉施設で福祉用具を扱う技術職として働いていました
しかし、2019年3月、男性に事前の打診なしに総務課の施設担当係に配転する人事を内示されたといいます
配転を命じられた背景として、受注減少により、施設での福祉用具の製作業務を廃止する方針があったこと、異動先の総務課で欠員が生じていたことなどがありました
男性は、配置変更の際に合意がなかったことを理由に人事の撤回を求めましたが、施設側に受け入れられず、退職したということです
協議会側は、配置転換に関し、「需要がなくなる技師として勤務させ続ける経営上の合理性はなかった」などとして、その適法性を主張しました
これに対し男性側は、「労働契約で職種を限定していた状況下では、協議会側は同意なしに技術職から総務課へと職種を変えることは許されない」と反論しました


最高裁で二審を破棄差し戻し
■第一審・第二審判決

一審・二審共に、男性と協議会側との間で、男性を技術職として就労させるとする職種限定合意があったことを認定 その一方で、施設では男性が従事していた技術職の業務が廃止される方針だったことから配置命令には解雇回避の目的があったと判断 総務課への異動は業務上必要で、合理的な理由があったとして配転命令を有効としました

◆◆最高裁判決
しかし、最高裁判決では、原判決が破棄され、差し戻しとなりました
最高裁判所は、職種限定合意があった中では、使用者である協議会側は、「配置転換に関する同意を得ずに、総務課施設管理担当への配置転換を命ずる権限をそもそも有していなかった」と判断しました
その結果、「協議会側が配転命令をする権限を有していたこと」を前提に判断された二審判決をくつがえす形となり、本件配置転換が損害賠償の対象となり得るかなどを再度審理させるため、大阪高裁に差し戻す決定を下しました


◆◆最高裁令和6年4月26日判決
労働条件明示のルールが強化
働き方の多様化が進む昨今、事前に職務内容を明確に定義する“ジョブ型雇用”が普及しつつあるほか、今年4月からは「労働条件明示のルール」が強化されています
この「労働条件明示のルール」については、2024年4月1日以降に締結される労働契約が対象となっており、全ての労働者に対する就業場所などの明示が義務付けられたほか、有期契約労働者に対しては、更新条件・無期転換の条件なども明示することなどが定められました
労働条件明示のルール
●全ての労働者を対象とした明示
労働契約締結及び有期労働契約の契約更新のタイミングでの、雇入れ直後の就業場所・業務の内容、就業場所・業務の「変更の範囲」の明示
●有期契約労働者を対象とした明示
①有期労働契約の締結時及び契約更新のタイミングごとの、更新上限の有無とその内容の明示および更新上限を新設・短縮する場合は、新設・短縮前に理由を説明することの明示
②「無期転換申込権」が発生する有期労働契約の契約更新のタイミングごとの、無期転換申込機会、無期転換後の労働条件、無期転換後の賃金等の労働条件の決定に当たり、正社員などの無期雇用フルタイム労働者とのバランスを考慮した事項(業務の内容など)の説明に努める旨の明示


◆◆◆コメント
今回、使用者である協議会側としては、解雇を回避するための手段として配置転換を行った側面も多少なりともあったと推測されますが、職種限定合意がある中では、使用者側に労働者の同意なく配置転換する権限がないことが明確になりました
今後、労務実務としては、職種限定合意がある労働者に対し、丁寧に配置転換の同意を求めたうえで、どうしても同意が得られない場合に、退職勧奨または整理解雇を検討するという流れとなりそうです
労働契約についてのルールが変わる中での今回の最高裁判所の判決
労働者に対する条件の明示と、条件変更の際の丁寧な同意取得が重要になりそうです

<ニュース 社会全体で医療的ケア児家庭を支える>

 

「社会全体で医療的ケア児家庭を支える」
障害福祉サービス等報酬で前向きな改定が行われました
2024/04/24 フローレンス


令和6年度以降の障害福祉サービスの報酬が決定し、医療的ケア児を中心としたご家庭への支援が大きく拡充されました!(厚生労働省「令和6年度障害福祉サービス等報酬改定の基本的な方向性について」)
フローレンスは2014年に日本で初めて医療的ケア児を専門に長時間お預かりする「障害児保育園ヘレン」を立ち上げ、障害児保育・家庭支援事業に取り組んできました
以来、事業を通じて医療的ケア児家庭の声を聞きながら、全国医療的ケア児者支援協議会や「永田町こども未来会議」のメンバーとともに厚生労働省やこども家庭庁へ提言しており、令和6年度障害福祉サービス等報酬改定で提言内容が実現しました

                     

◆◆今回は、改定のなかでも特に医療的ケア児家庭を取り巻く環境の改善につながる点を4つ紹介します
◆ポイント①:通所施設でも医療的ケア児を長時間預かれるように!保護者の就労につながることを期待
医療的ケア児家庭を取り巻く大きな課題の一つが、「保護者が働きたくても働けないこと」です 一般的に、保護者が就労する場合にはこどもは保育所に通います しかし胃ろうや呼吸器などのデバイスを24時間装着している医療的ケア児や重い障害のある重症心身障害児の通える保育園というのは非常に稀です
そうしたお子さんが通うのが児童発達支援・放課後等デイサービス(通称:障害児通所支援)ですが、障害児通所支援では保護者の仕事終わりまで長時間の預かりはできませんでした 障害児通所支援の役割は「療育」であり保育園のような「就労支援」ではないためです 
数時間程度の療育・発達支援が終わったら、その後こどもを預かってもらえる場所がなく、就労をしたくてもその選択をすることができませんでした
しかし、今回の報酬改定によって、障害児通所施設(児童発達支援、放課後等デイサービス)の役割として「預かりニーズへの対応」が明記されました それによって、利用児童本人の療育・発達支援だけではなく、就労など家庭全体のニーズに応じた「預かり」が可能になり、それに応じた事業者の収入も確保しやすくなります
「障害のある子を育てる親でも、キャリアを諦めず働き続けられる」社会に向けて、少しずつ環境が整備されてきています


◆ポイント②:障害児通所施設の定員が緩和され、「預け先が見つからない」問題が一歩改善へ!
障害児を預かる児童発達支援事業所や放課後等デイサービスですが、すべての障害児を受け入れるためには全く数が足りていません
その要因の一つは、「定員5名の壁」と言われる問題です
実は、障害児通所支援施設で重い障害のある子(重症心身障害児)を受け入れる場合、定員を5名にしたときが基本報酬が一番高く設定されており、それ以上の人数を受け入れると報酬が下がる仕組みになっていますこの仕組みがあることにより、本来であればより多くのこどもを受け入れられる施設でも、利用人数を5人以内に調整してしまう場合があります 専門性の高いスタッフが揃い、設備や配置的に5人よりも多くお子さんを預かれるキャパシティがある場合でも、預かり定員を5人にする制度上のインセンティブがあるのはとてももったいないことでした
報酬設定の制約を解消し、子どもたちの受け入れ先を増やせるようにしてほしい!と提言を続けた結果、今回の報酬改定によって「定員7名まで」増やしても基本報酬が下がらない仕組みになりました! 1つの施設で受け入れ定員を増やしやすくなったことにより、「こどもの預け先が見つからない」問題が一歩改善に向かいます!


◆ポイント③:荷物が多くケアも必要な医療的ケア児の送迎に補助がつき、一歩前進!
医療的ケア児を育てる家族を悩ませるもう一つの問題が、「こどもの預け先が遠すぎる問題」です
障害の重い子を預ける施設の数は限られているため、運良く預け先が見つかったとしても、家から遠い施設を利用せざるを得ない場合があります 一方で、都市部では車を持っていないご家庭も多く、また就労をしているご家庭の場合、朝と夜に遠い距離を毎日送迎することは現実的ではありません
そのため施設側としては、ご家庭までの送迎を実施したいのですが、そこに立ちはだかるのがコストの問題です
送迎距離が長ければ長いほどガソリン代がかかりますし、医療的ケア児の場合、ドライバーの他にお子さんのケアをする看護師の同乗が必要なためさらにコストが増えます
しかし国の補助額はそもそもの額が少ない上に、距離に応じた加算もなく、施設から遠い距離に住む医療的ケア児を送迎しようとすれば、ほとんど事業者の持ち出しになってしまいます そのため「利用できるご家庭のエリアを限定」せざるを得ない施設も多く、家から遠いことを理由に施設を利用できないご家庭もたくさんいるのです
しかし、今回の報酬改定によって、送迎コストに対する国からの補助が厚くなりました!
まだ補助額に改善の余地はありますが、今後、施設の負担が減り、距離が遠いご家庭でも、障害児通所支援を利用できるようになる第一歩につながることを期待しています

 

◆ポイント④:居宅と通所の療育、どちらかしか選べない問題が改善!
医療的ケア児や、重症心身障害児を育てる家庭の課題として、「家か施設のどちらかでしか療育を受けられない問題」もあります
「居宅訪問型児童発達支援」は、家で療育が受けられて、「通所型児童発達支援」は、地域にある施設で療育が受けられます
医療的ケア児や重症心身障害児は、外出による疲れで容態が悪化することもあるので、自宅で療育を受けられるのはとても良いことです 一方で、地域の施設で療育を受ける通所型児童発達支援では、同じ年代の子と交流し、幅広い遊びや刺激に触れられるメリットがあります どちらも使えたらいいのに、これまでは、居宅訪問型と通所型を同時に使うことは原則認められていませんでした 容態を優先するか、こどもの育ちを取るか…というトレードオフを迫られていたんです
そのルールが、今回緩和されて、両方の支援を組み合わせて使うことができるようになりました!療育を受けたいご家庭がお子さんの体調の波に合わせて、使う支援を選ぶことができる環境に一歩近づきました!


◆◆◆さいごに この他

           

・医療的ケア児の入浴支援(家で保護者だけで対応することはとても大変だったので、意義ある改定です)
・オンラインでの相談援助の推進(移動が大変な医療的ケア児親子にとって助かります)
・きょうだいも相談援助等の対象であることを明確化
などこどもの療育・発達支援だけでなく、家庭全体に対する支援が強化されました

社会全体で医療的ケア児家庭を支えていくという想いがこもった報酬改定でした
重度障害・医療的ケア児家庭を支援するための制度や施策は、まだまだ改善が必要です。引き続き医療的ケア児家庭の声を聞きながら、他の事業者とともに提言活動に取り組んでいきます。
フローレンスのこうしたソーシャルアクションや政策提言活動は、皆さんからのご寄付によって支えられています いつも応援してくださる寄付者の皆さん、参加・協働してくださっている多くの皆さんに心から御礼申し上げます
引き続きご支援・応援をよろしくお願いします