春日部 一般社団法人らしえる

障害の生きづらさを考える <行動援護>

<ニュース 知的障害・刺しゅうアート 岩国市>

知的障害がある刺しゅう作家 華道家と共同アート
壁掛け風作品を母校の支援学校に贈る
2024/04/28 読売新聞  帆足英夫


山口県岩国市出身で知的障害がある刺しゅう作家・久米文子さん(34歳)が、同市の華道家・蔵重伸さんとの共同作品を完成させた
10枚の刺しゅう作品を花を生けるようにボードに配置したアートだ 2人は久米さんの母校の県立岩国総合支援学校(岩国市)に作品を贈り、笑顔を輝かせた


久米さんと蔵重さんによる共同制作の作品
久米さんの作品は、鳥、チョウ、花などの図柄や日頃の生活の中で紡いだ言葉を赤、青、黄といった色とりどりの糸で布地に縫って表現している
今回の作品は、久米さんの過去の作品群の中から蔵重さんが10枚を選び、縦116センチ、横91センチのボードにレイアウトし、壁掛け風に仕上げた
華道家元池坊岩国支部長を務める蔵重さんは、障害者を対象にした華道教室を開いている 久米さんも指導を受けたことがあり、こうした縁で今回の共同制作が実現した
久米さんは同県周南市のグループホームで暮らし、同市の就労継続支援事業所「夢ワークあけぼの」で制作の日々を送る 刺しゅうを始めたのは18歳の頃施設職員に習ったことがきっかけで、たちまちのめり込んだ


2019年度には障害のある芸術家を発掘する県の事業で、県内の優れた作家9人の中に選ばれた 今では年間の制作数は約300点に上り、県内外の店舗やインターネットで販売されている

                        

久米さんの作品の魅力について、蔵重さんは「落ち着いた色のトーン 文ちゃんの心にある、何かずっしりとしたものが、そういう表現になっているのでしょう」と語る
16日に同校で贈呈式があり、在校生に作品を贈った久米さんは、蔵重さんとともに笑顔で記念写真に納まった


障害者の文化芸術活動の推進に取り組むNPO法人「つながるネット」の理事長を務める慶典さんは、「障害者と一流の芸術家がコラボレーション(共同制作)することで、芸術の新たな可能性を見つけていけるはず」と言う
中根弘信校長(55)は「素晴らしい作品をいただき、ありがたい」と感謝した 作品は同校の玄関に近い廊下の壁に飾り、来校者が鑑賞できるようにするという

<ニュース 成田空港の最前線で働く 軽度知的障害>

空港の最前線で働く軽度知的障害の25歳 
職場の多様化へ周囲の支え 
2024年4月28日 千葉日報成田支局・渡辺翔太


日本の空の玄関口・成田空港の現場最前線とも言える駐機場(ランプ)で、軽度知的障害と聴覚障害がある7人の従業員が働いている
日本航空の特例子会社「JALサンライト」(東京都品川区)が障害のある人の業務の幅を広げてやりがいを感じてもらおうと、2023年1月から始めた試みだ 同社によると、従来これらの障害者が航空関連で従事する仕事は社内向け業務などの「裏方」が中心で、安全面の厳しい制限がある駐機場で働く事例は少ないという 現場に密着すると、「貴重な経験でとても楽しい」と話す社員の姿があった


パズルのピースを埋めるように「どうやったら入るだろう?」
軽度知的障害と発達障害がある千葉県四街道市出身の谷奥大晴さん(25)は成田空港の駐機場で、手荷物をどう積み込めば良いか思案していた
谷奥さんが1年以上前から従事しているのは、運航を地上で支えるために行う「ランプハンドリング業務」の一種で、旅客から預けられた手荷物を出発前の航空機に搭載するコンテナに積み込むことが主な役割だ
旅客のキャリーバッグやリュックなどを傷つけないように丁寧かつ、フライトに遅れが生じないように素早く作業していく「大きさや形が異なる手荷物をパズルのピースを埋めるように試行錯誤している時が楽しい」


送り先を間違えないよう、手荷物のタグとチェックシートを照合する作業も手慣れた様子で行う
週5日間、実家から電車で30~40分かけて成田空港に通う シフト制の8時間勤務で、早番の日は午後2時半すぎ、遅番では同10時半に仕事を終えるJAL傘下の格安航空会社(LCC)スプリング・ジャパン(成田市)の国内・国際線を担当し、1日に最大で出発4便の積み込みと到着5便の積み降ろしを行っている

6年間「縁の下」で運航支える 谷奥さんが2つの障害の診断を受けたのは小学生の時
「勉強が追いつけなくなり、不登校気味になったことで受診した」と振り返るいずれも軽度であるため日常生活や人付き合いに支障は感じていないが、難しい言葉や表現を言われると解釈が難しい時があると自覚している 17年、市川市の特別支援学校を卒業した後、18歳でJALサンライトに入社した
高校3年生の時に(同社の)インターンに参加して、清掃やシュレッダーで書類を切断する業務に楽しく取り組めたので、ここで働きたいと思った」


同社には200人以上の障害者が、定年まで更新可能の契約社員として雇用されている 軽度知的と聴覚の障害者がその半数以上を占める
JAL本社に加え、成田空港と羽田空港で勤務し、パイロットや客室乗務員の制服管理やスケジュール表作成、海外支店への資料郵送などを担い、航空機を運航する社員たちを間接的な業務で支えている

                  

谷奥さんは1年目から成田に配属され、清掃や資料郵送などの事務仕事のほか、客室乗務員や地上係員らが利用する社員向けのカフェ「SKY CAFE Kilatto」のスタッフとして働いた 牛乳をスチームにしてカフェラテを作るなど本格的な商品を提供した 23年1月にランプハンドリング業務に移るまで、約6年間「縁の下」から航空機運航を支えた


障害者と共に「収益上げる」
「日本の航空業界を引っ張る会社として、障害の有無や性別、国籍に関係なくあらゆる人が活躍できる優しい職場環境を目指したい」
JALグループでランプハンドリングを担う「JALグランドサービス(JGS)」の担当者は語る
他方で、JALサンライト側にも、障害がある人でも「稼げる仕事」に就けるようにするという狙いがあった 「株式会社なので、収益を上げることもミッション。社員たちが給与以上のアウトプットが可能になる業務を担当できるよう養成していきたい」
両社の理念と狙いが合致し、グループ初の試みとして谷奥さんら障害のある7人をJGSに出向させることになった 7人が実際に駐機場に立つ前に、どの業務ならば担当できるか現場で作業を見学してもらい、本人たちの意向を確認 現在担うコンテナへの手荷物出し入れ業務が、手順が比較的シンプルで適任だと判断した
一方、業務内容を限定したとしても、安全が最優先となる駐機場に立つには、専門用語が多いマニュアルを理解する必要がある そこで知的障害がある谷奥さんたち向けに、難しい文章表現を絵に描いて分かりやすく伝える工夫をしたという 聴覚障害者には、スマートフォンのアプリを使用して現場で指示を伝えている

              

「最初はうまくできるか不安だった」

こう話す谷奥さんも2カ月もたつと仕事が板に付いてきた 障害者たちが現場の最前線で働くことができるのは、常に帯同して見守る現場経験豊富な「ジョブサポーター」の存在が大きい
JGSを定年退職した熟練技術を持つ元社員を再雇用し、障害のある従業員のそばで業務を見守る 手伝うだけに終始せず、アドバイスや判断材料を与えて自主性を重んじる 谷奥さんは「前に『1千個以上積めばうまくなる』と言われたが、本当にそうだった」と振り返る
谷奥さんを支えるのはジョブサポーターだけではない 業務に苦戦する姿を見れば、「こうすればうまく入るよ」と健常者の先輩たちが声を掛ける 休憩時間や業務の合間には同僚が航空機の仕組みについて話すことも多く、谷奥さんは「元々、航空機に興味はなかったけれど、好きになってきた」